さいたま新都心を舞台に、日本最大級のクラフトビールイベント「けやきひろばビール祭り」が、ついに30回目を迎えました。全国64社が集い、400種以上の多彩なビールが一堂に揃う圧巻のスケール。今年は節目を祝うコラボビールや初出店組、国産ホップに挑むブルワリーなど、多彩なテーマが交錯し、会場はかつてない熱気に包まれていました。

今回は、実際に会場で選んだ一杯とともに、ブルワリーの背景を掘り下げながらレポートします。
第一章:節目を彩る記念コラボのブルワリーたち
Brasserie Knot(北海道阿寒郡鶴居村)

釧路湿原のそば、阿寒の大自然に抱かれた小さな村からクラフトを発信するブルワリー。「人と自然を結ぶ」をテーマに、北海道の大地や素材を活かした造りで国内外から注目を集めています。北の自然環境を背景にした繊細なフレーバー表現が持ち味です。
選んだ一杯:KEYAKI(Belgian Session IPA/4.5%)

ベルジャン酵母のスパイシーさが軽やかに広がり、ホップの爽やかさと見事に調和。飲み疲れしないクリーンさがあり、30回という節目のビールフェスを祝うにふさわしい華やぎがありました。
CHORYO Craft Beer(奈良県北葛城郡広陵町)

奈良の老舗酒蔵「長龍酒造」を母体に持ち、日本酒の発酵文化とクラフトビールの融合を追求するブルワリー。白麹や日本酒酵母といった酒造りの知見を積極的に導入し、独自の“和クラフト”を切り開いています。
選んだ一杯:"欅ノミツコ"(Hazy IPA/7.5%)

名古屋のY.MARKETとのコラボレーションで生まれた限定仕込み。白麹由来の爽やかな酸がホップのトロピカルな果実感を支え、重さを感じさせない軽やかな余韻。伝統と革新の邂逅を象徴する一杯でした。
BLACK TIDE BREWING(宮城県気仙沼市)

東日本大震災からの復興を背景に誕生した港町ブルワリー。米国出身のブルワー陣を含む国際色豊かなチームが手掛けるIPAは、国内クラフトビールシーンでも高い評価を受けています。気仙沼の港から世界基準のIPAを発信し続けています。
選んだ一杯:Hot Parade(Double IPA/8.0%)

柑橘と松脂を思わせるホップアロマが弾け、厚みあるモルトが全体を下支え。そこにハバネロの刺激的な辛味が重なり、力強さの中に唯一無二のアクセントを刻む。余韻は意外なほどクリーンで、熱気あふれる会場にふさわしいインパクト抜群の一杯でした。
Y.MARKET BREWING(愛知県名古屋市)

名古屋のクラフトシーンを牽引する存在で、革新的なホップ使いと多彩なスタイル提案でファンを魅了。常に“新しい驚き”を届ける挑戦を続け、国内トップクラスのブルワリーとしての地位を確立しています。
選んだ一杯:Sakekasu White Chocolate Seltzer(Smoothie Ale/7.5%)

酒粕とホワイトチョコという意外性抜群の素材を組み合わせた一杯。クリーミーでほのかに甘やか、同時に爽やかな酸が走るバランス感。思わず会場でもざわめきが起こる!?、新感覚の挑戦作でした。
第2章:初出店&ニューカマー
AGARIHAMA BREWERY(沖縄県島尻郡与那原町)

2023年に沖縄本島南部・豊見城で誕生した新鋭ブルワリー。泡盛の副原料や南国フルーツを取り入れるなど、沖縄ならではの自由な発想でビール造りを展開しています。酸味設計や副原料の活かし方にセンスが光り、すでに地元ファンをつかんでいる注目株です。
選んだ一杯:Dragon Sour Ale(Sour Ale/5.0%)

ドラゴンフルーツを用いたサワーエール。ピンクの色合いと、柑橘にも似た軽やかな酸味が印象的。海風を感じさせるミネラル感があり、連飲の合間にリセットするのに最適な一杯でした。
ヒメビール(愛媛県新居浜市)

1963年創業の「愛媛果汁食品」が立ち上げたブルワリー。「ヒメ」は“姫”ではなく“愛媛”に由来します。柑橘果汁の加工技術を背景に、フルーツビールを得意とするのが特徴。ジュースメーカーならではのノウハウを活かし、果実感と飲みやすさを両立したビールを数多く手掛けています。
選んだ一杯:日向夏フルーツエール(Fruit Ale/2.0%)

宮崎産の日向夏を使った爽やかなフルーツエール。低アルコールながら果汁の瑞々しさが際立ち、ゴクゴク飲める仕上がり。長時間にわたるビアフェスでは“休息の一杯”でした。
OUR BREWING(福井県福井市)

“発酵文化の交差点”を掲げ、北陸・福井から全国に挑む新興ブルワリー。ホップを贅沢に使ったHazy IPAから、伝統と革新を融合させた実験的な仕込みまで幅広く展開し、リリースのたびに話題を呼んでいます。
選んだ一杯:Lupulin Rex(TDH Imperial Hazy IPA/8.5%)

ハイインパクトなホップを惜しみなく使用。パイナップルや黄桃のトロピカルな香りが前面に立ち、乳糖によるまろやかさと豊かなモルト感が厚みを与えています。アルコール高めながら滑らかで、ホップキャラクターがひとつずつ立ち上がる構成。重さを感じさせず、満足感のある一杯でした。
アンドビール(山梨県甲州市勝沼/東京都杉並区高円寺)

高円寺の人気クラフトビールとスパイスカレーのお店。ビール工場を2025年に醸造機能を山梨・勝沼へ移転。現地の果物やワイン文化との融合を見据えつつ、仕込み量を拡大しています。“街と畑をつなぐブルワリー”として進化中です。
選んだ一杯:旅するIPA(IPA/5.9%)

フルーティーなホップの広がりとクリーンな後味が心地よい。移転後のスケール感とテロワールを感じさせる一杯でした。
第3章:国産ホップの誇り
忽布古丹醸造(北海道・上富良野町)

道内で唯一、ホップを商用栽培している上富良野町に根ざし、畑とともに歩むブルワリー。小仕込みで多彩なスタイルを発表しつつ、常に「産地と飲み手をつなぐこと」を重視しているのが特徴です。現地農家との協働や地元イベントへの参加など、地域に深く根差した活動が印象的です。
選んだ一杯:伊予の恋人(Hazy IPA/7.0%)

この一杯は、上富良野産カスケードホップと愛媛県産伊予柑という遠く離れた2つの素材を組み合わせたDD4Dとのクロスコラボによる意欲作。ジューシーな柑橘香の奥にホップの青々しい香りが重なり、飲むほどに爽やかさと奥行きが広がる一杯でした。
ISHINOMAKI HOP WORKS(宮城県石巻市)

東日本大震災後、石巻市北上町で2017年からホップ栽培を始めたブルワリー。現在は劇場跡地を改装した醸造所を拠点に、地域再生とクラフトビール文化の両立を目指しています。ホップファームを併設し、自ら育てたホップを使ったビールを提供する姿勢は、石巻ならではの個性。首都圏など都市部での流通はまだ限られており、フェスや現地でのタップ提供でこそ出会える存在です。
選んだ一杯:潮風ラガー(Lager/5.0%)

すっきりとしたラガーの飲み口に、石巻産ホップのやわらかなアロマが重なります。軽やかで心地よい後味は、まるで港町を吹き抜ける潮風のよう。脂のあるフードと合わせるとより映える印象でした。
遠野麦酒ZUMONA(岩手県遠野市)

“ホップの里”として知られる遠野を代表する老舗ブルワリー。遠野ホップ農家やキリンビールと連携し、地域を挙げて国産ホップの価値を広めてきた功労者的存在です。近年は凍結粉砕や新品種開発など挑戦的な取り組みを続け、国産ホップの可能性を広げています。
選んだ一杯:IBUKI HOP IPA(SMaSH IPA/6.0%)

遠野産IBUKIホップのみを使用し、モルトも単一というシンプル設計。IBUKIの華やかで清涼感のある香りがダイレクトに伝わり、苦味も透明感を持って広がります。ホップそのものを味わうにはうってつけの一杯でした。
第4章:そのほか“今”飲むべき注目ブルワリー
CRAFT BANK(京都府福知山市)

旧銀行の建物を再利用したブルワリーで、店名の「BANK」もそこに由来します。コンセプトは“ドリンカビリティ=何杯も飲みたくなるビール”。京都産の素材や酵母を積極的に取り入れ、地域とクラフトの接点を模索しています。小規模ながら独自性ある醸造で、関西圏外での出会いはまだ珍しい存在。
選んだ一杯:KYOTO IPA(Session IPA/4.0%)

「KYOTO」の名を冠するセッションIPAは、京都産天然酵母を使用。ホップはNectaronとMosaicを軸にジューシーなトロピカル感があり、白麹由来のやわらかな酸味が後味を引き締めます。アルコール度数も控えめで、ついつい杯を重ねたくなる仕上がりでした。
TWO RABBITS BREWING(滋賀県近江八幡市)

オーストラリア出身のブルワーと日本のスタッフが立ち上げた、国際色豊かなブルワリー。モットーは「ビールに国境はない」。滋賀の湖東エリアから、NZホップを多用した華やかで香り豊かなIPAを数多く発表しています。シンプルかつ丁寧な仕込みと、異文化を融合させた味づくりが特徴です。
選んだ一杯:KIWI IPA(IPA/6.0%)

ニュージーランド産ホップが織りなすトロピカルなアロマに、しっかりとしたモルトボディが寄り添います。ジューシーでありながら芯があり、“踊れるIPA”という表現がぴったりの一杯。肉系のフードとの相性も抜群でした。
YELLOW BEER WORKS(福島県福島市)

スローガンは「思わずにっこりしちゃうビール」。地元の食材や果物を積極的に使い、ポップな発想で自由なビールを次々と仕込む新鋭ブルワリーです。ラッシーサワーやライスラガーなど、ユニークで記憶に残るスタイルに挑戦する姿勢は、フェスの中でも光っていました。
選んだ一杯:Soda Soda Lassi Sour(Sour Ale/4.0%)

ラッシーのような乳酸系の酸味とフルーティーな果実感が同居するサワー。爽快感とデザート的な飲みやすさのバランスが絶妙で、辛口カレーやロースト系料理とのペアリングもいけそう。ほかにもHazyやライスラガーなど幅広い展開があり、遊び心あふれるラインナップでした。
まとめ
30回目を迎えた「けやきひろば秋のビール祭り」は、記念すべき節目にふさわしく、伝統と革新、地域と季節感が交錯する場となっていました。ブルワリーの個性を知り、ブルワーと直接言葉を交わし、その場で生まれる会話や空気を含めて楽しむ——それこそがビアフェスの醍醐味です。
次の一杯を探すワクワクと、グラスを掲げる隣人との笑顔。30回を重ねてもなお、「けやき」は私たちにビールの未来を見せてくれます。
【「2025けやきひろば秋のビール祭り」概要】
開催期間・日時:2025年9月19日(金)16:00~21:30
20日(土)~22日(月)11:00~21:30
23日(火・祝)11:00~19:00
開催場所:さいたまスーパーアリーナコミュニティアリーナ(屋内)
入場料:無料
出店数:64店
【初出店ブルワリー】
アンドビール(東京)、NAMACHAん Brewing(東京)、ぬとりブルーイング(埼玉)、OUR BREWING(福井)、ヒメビール(愛媛)、AGARIHAMA BREWERY(沖縄)
【国内】
Brasserie Knot(北海道)、hokkaido brewing(北海道)、忽布古丹醸造(北海道)、KANEKU BREWERY(青森)、遠野麦酒ZUMONA(岩手)、いわて蔵ビール(岩手)、田沢湖ビール(秋田)、秋田あくらビール(秋田)、HOPDOG BREWING(秋田)、希望の丘醸造所(宮城)、鳴子温泉ブルワリー(宮城)、ISHINOMAKI HOP WORKS(宮城)、BLACK TIDE BREWING(宮城)Yellow Beer Works(福島)、牛久醸造場(茨城)、うしとらブルワリー(栃木)、ろまんちっく村ブルワリー(栃木)、BLUE MAGIC(栃木)、コエドブルワリー(埼玉)、CARVAAN Brewery(埼玉)、スモーク・クラフト(埼玉)、Zakkoku Koubou(埼玉)、SHIKI BEER(埼玉)、U.B.P BREWERY(埼玉)、Teenage Brewing(埼玉)、OKEI BREWERY(東京)、SUNMAI(東京)、SORACHI 1984(東京)、レッツビアワークス(東京)、ティー・ワイ・ハーバーブルワリー(東京)、Let's Beer Works(東京)、ヤッホーブルーイング(長野)、サンクトガーレン(神奈川)、カケガワビール(静岡)、反射炉ビヤ(静岡)、Repubrew(静岡)、ワイマーケットブルーイング(愛知)、オラホビール(長野)、信州須坂フルーツブルワリー(長野)、南信州ビール(長野)、八ヶ岳ブルワリー(山梨)、エチゴビール(新潟)、ISEKADO(三重)、CRAFT BANK(京都)、Kyoto Brewing Co.(京都)、TWO RABBITS BREWING COMPANY(滋賀)、Derailleur Brew Works(大阪)、CHORYO Craft Beer(奈良)、大山Gビール(鳥取)、松江ビアへるん(島根)、DD4D BREWING(愛媛)、別府ブルワリー(大分)、宮崎ひでじビール(宮崎)、B.M.B Brewery(宮崎)、
【海外・その他】
ドイツビールエルディンガー、F.B.JAPON、BARBEE'S/讃岐うどん酒場川金、健康中華青蓮、そじ坊・杵屋
Webサイト https://www.beerkeyaki.jp