タップルーム探訪|滋賀県・日野町の酒屋の中にあるクラフトビールのタップ——ヒノブルーイングがつくる日常

酢屋忠本店外観
  • 酢屋忠本店外観
  • 近江八幡駅南口のバス停
  • 近江八幡駅南口のバス停
  • 酢屋忠本店最寄りの「大窪」バス停
  • 「大窪」バス停周りの風景
  • 「大窪」バス停周りの風景
  • 酢屋忠本店外観
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たどり着くまでの時間も、この場所の一部

近江八幡駅南口のバス停

滋賀県蒲生郡日野町。近江八幡駅からバスに乗り、約50分。停留所の数にして40以上を数える道のりです。

降車するのは「大窪」。そこから歩いて1~2分ほどの場所に、目的地である酢屋忠本店があります。

酢屋忠本店最寄りの「大窪」バス停

都市部のブルワリーのように“アクセスしやすい場所”ではありません。ただ、この距離感こそが、ヒノブルーイングの土台をはぐくんでいる、そんな気がします。

老舗酒屋から始まったブルワリー

酢屋忠本店外観

ヒノブルーイング(Hino Brewing)は、江戸時代創業の老舗酒屋・酢屋忠本店を母体に、2018年1月に設立されたクラフトビールメーカーです。

店舗自体はいわゆる町の酒屋ですが、隣には歴史を感じさせる建物があり、この土地に根付いてきた時間の積み重ねがそのまま残されています。

看板(ヒノブルーイング)

店先まで続く板塀の上には木板の看板が掲げられ、片面には「酢屋忠本店」、もう一方にはヒノブルーイングのアイコンである“踊る猪”が描かれています。この猪のモチーフは、約850年の歴史を持つこの町の大祭「日野祭」の元宮、馬見岡綿向神社に由来するものです。

看板(酢屋忠本店)

ここで感じられるのはこの町に根付いた祭りの文化です。日野町では日野祭を中心に地域のつながりが育まれてきました。毎年4月になると、5月2日(宵祭)、3日(本祭)に向け、町内ごとに祭りの準備が始まり、子どもたちは太鼓や鉦の練習を通して、自然と近所の人たちと関係を築いていきます。

ヒノブルーイングもまた、その延長線上にある存在です。

タップルームではなく、酒屋の中のタップ

ビールコーナー

店内に入ると、左手に6つのタップが並びます。ただし、それはタップルームと呼ばれるような独立した空間ではありません。飲むスペースはあくまで店の一角で、テーブルも瓶ビールのケースを積み上げ、その上に板を渡した簡易的なものです。

タップは6口

整えられた空間ではなく、酒屋の中にそのままビールが入り込んでいる。この距離感が、ヒノブルーイングの最大の特徴かもしれません。クラフトビールが特別なものとして切り出されるのではなく、日常の延長線上に置かれている。その空気感が、この場所にはあります。

地域の人が立ち寄る場所としての機能

店舗内観

約2時間ほど滞在している間に、この場所の性格ははっきりと見えてきます。ビールを量り売りで購入しに来たご夫婦。宅急便を出しに来た近所の方。日野祭の準備の合間に立ち寄った地元の人たち。いずれも、ビールを目的に訪れるというよりは、日常の流れの中で立ち寄っている印象です。

熟成型ビール「HINO Series」

都市部のタップルームに見られるような、ビール好きが集まる空間とは明らかに異なります。ここではクラフトビールは、趣味や嗜好の対象というよりも、生活の一部として存在しています。

6タップに並ぶ、ヒノブルーイングのラインアップ

金額表と本日のタップリスト

この日のタップは以下の6種(うち1種は完売)。

  1. キョウバンエール / Hazy IPA / 5.5%

    キョウバンエール / Hazy IPA / 5.5%
  2. カンピーIPA / Juicy IPA / 6.0%

    カンピーIPA / Juicy IPA / 6.0%
  3. バッドバニー / Hoppy Lager / 3.5%

    バッドバニー / Hoppy Lager / 3.5%
  4. 平成バナナ / Fruit Weizen / 5.0%

    平成バナナ / Fruit Weizen / 5.0%
  5. ゴールドバン! / Golden Ale / 5.5%

    ゴールドバン! / Golden Ale / 5.5%
  6. すだちラガー(完売)

提供されていた5液種はすべていただきました。スタイルとしてはIPAやラガー、フルーツ系まで幅広く揃っており、ラインアップ自体はクラフトビールとして王道です。

ただし、この場所で飲むと印象が少し変わります。生活感があり、ご近所の人たちと自然と会話が生まれる。その中で飲むビールは、肩肘張らずに楽しめるものとして自然に体に入ってきます。

カウンター上のサイン

なお、ビールの醸造はこの店舗では行われていません。実際の製造拠点は、車で7~8分ほどの場所にある「滋賀農業公園 ブルーメの丘」。休止していた醸造設備を引き継ぎ、そこで仕込みが行われています。

飲む場所とつくる場所が分かれているという点も、このブルワリーの特徴です。

クラフトビールが特別でなくなる場所

酢屋忠本店 店舗正面

クラフトビールは、多くの場合“特別なもの”として語られます。新しいスタイルやホップ、限定醸造。そうした文脈の中で価値が生まれてきました。一方でヒノブルーイングは、その対極にあるように感じられます。

ここでは、クラフトビールは特別な体験ではありません。酒屋に立ち寄り、ついでに一杯飲む。その延長線上にあるものです。

タップルームでもなく、観光施設でもない。ただそこにある酒屋の中で、自然と飲まれているビール。ヒノブルーイングは、クラフトビールがどのように地域に根付いていくのか、そのひとつのかたちを示しているように見えました。


【店舗情報】
店名:酢屋忠本店(ヒノブルーイング)
場所:滋賀県蒲生郡日野町大窪729
営業時間:毎週金・土曜日 12時~20時
サービス:ビール量り売り、角打ち

《BEERMAPS編集部》